撮影 TECHNICAL
『みすゞ』『Unloved』『LOFT ロフト』『叫』『トウキョウソナタ』
『60歳のラブレター』『南極料理人』『東京島』『わが母の記』
『WOOD JOB!』『滝を見にいく』
tspスタッフ参加作品『オーバードライブ』『あした吹く風』 『古都鎌倉』
日本映画撮影監督協会(J.S.C.)所属
TSP撮影センター長。業界歴30年以上のビデオエンジニア。最近はDITとも。
小学生時代から秋葉原に通う機械オタク
『ロッテクールミントガムCM ペンギン篇』アルチマット合成
『ロッテVIPチョコレートCM 工藤静香篇』アルチマット合成
『古都鎌倉』
『周防正行監督:サラリーマン教室-係長は楽しいな』
『恩地日出夫監督:実録犯罪史シリーズ 国際指名手配第1号 前科3犯 逃亡画家』
芦澤 ずいぶん昔のことなんで忘れてしまいましたけど、もともとは、映画とか映像に縁のなかった私ですけど、学生時代に付き合っていた人が映画青年で「『気狂いピエロ』っていう映画、おもしろいよ」って言って。その人との関係は止まっちゃったんですけど、「映画っておもしろいな」っていうことがきっかけで、この道に入ったんです。最初は、8ミリ映画少女みたいな感じでいろいろ作ってたの。撮影の世界っていいなって思って。それがきっかけで入り込んだ。
で、最初は演出とかやろうかなと思ったけど、それは絶対向かないなと思って。そうしたらある現場で、撮影部の人たちのそのきびきびした動きがすごいいいなと思って。それで、すごいやりたいなって思って始めたのがきっかけです。
佐藤 芦澤さんが制作をやっていた時を知っているカメラマンと前、仕事をしました。昔、制作やってました?
芦澤 演出も制作も一緒のぐちゃぐちゃなピンク映画ですから。
佐藤 ピンク映画だったんですね。
芦澤 TSPは昔、Vシネも多くやってましたよね。
佐藤 トイレの見た目とか撮りますからね。「佐藤、便器の見た目撮るぞ!」って。ちょっとエッチなVシネ。
芦澤 88光映という機材屋さんに出入りしているときにTSPを紹介していただいて
当時、ビデオがこれからっていうことだったんで。私も、不器用でしたが、ビデオは嫌いではなかったので、いろいろ教えてもらいに行っているうちに、こんなに皆さんと親しくなりました。
でも「古都鎌倉」の出会いが大きかったですね。
芦澤 私はそこまで思わなかったけど、「佐藤さんが担当したところが1番安定しているね。」ってプロデュサーが言うわけですよ。桜の色とかそういうのも調整した感がなく「程よい感じ」をいつも作ってもらいますね。安定感ですね。あの時代としては結構、先見的なものだったので、ハイビジョンの原点がわかるんじゃないかしら。
佐藤 まあHD(ハイビジョン)カメラ出始めでしたからね。ほとんど何もカメラの調整が出来なかったです。結構苦労して。まあ要するに綺麗に撮らなきゃいけないんですよね。紅葉は赤く撮らなきゃいけないし、桜はピンクに。
ちゃんと綺麗に撮らなくちゃいけないから、結構勉強になりました。
芦澤 私が1番大事にしたいのは、「黒色」っていうことなんですよね。で、フィルムに出せてデジタルに出せないのってやっぱり黒なんです。黒の表現っていうのはどうするかっていうことで。昔から「あて黒」っていうのがあった。黒いところに光を当てて黒くするっていうのが本当の艶やかな黒。「古都鎌倉」のときからそうなんですけど、やっぱり黒の表現はデジタルが苦手かな。黒をどう豊かに表現するかっていうことが中心なんですね。だから6段階チャートで言えば、1番の黒からちょっと感じる黒。その辺をどうやって作るかに苦心します。
佐藤 ハリウッドもそうだけど、ナイターでいっぱいライトを使って、最後に絞めたりとかするんですけど、日本の予算の無い作品だとライト少なくて。それだと「あてない黒」だから、デジタルだとなんか安っぽい感じになっちゃって、あんまり良くないんですよ。
芦澤 黒の階調をどういう風にうまく出すかっていうこと。
佐藤 あの頃、黒は一番大事でした。お寺は、暗いし薄暗いし。その中でどう「黒」を出すかっていうのがね。照明もいっぱいあるわけじゃない。「黒」は難しいです。
芦澤 そこで私の黒好きが磨かれたのかもしれません。本当に、黒なんて相対的なものじゃないですか。それを佐藤さんは、上手に黒を作ってくれましたね。
思い出した!
佐藤さんに怒られたことがあって。ケーブル。私、何本も壊しちゃいました。最終的には「触らないでください」って言われました。すみませんでした。
佐藤 芦澤さんは高いところが嫌いなのに、俯瞰とかハイアングルが結構多いですよね。
芦澤 やっぱり人間は矛盾している生き物です。
佐藤 「古都鎌倉」の時、必ずイントレありましたもんね。高所作業車も使いましたね。
佐藤 それが、撮影会社じゃなかったんですよね。高所作業車の会社。うまい人が1人いて、ご指名しちゃってましたね。
芦澤 「これから映画の世界で生きていけるよ」みたいな根も葉もないことを言って励ましちゃって。
ある日、お昼ご飯が小町通りにあるお好み焼き屋さんで。佐藤さんが、「僕、家でお好み焼き作ってるから」って4人分くらい進んで作ってくださったんですけど。作りすぎちゃったらしくて、午後の撮影の時に「手がしびれちゃって、痛くて動かない」って。笑いましたよね。
佐藤 作ったのは覚えています。でも「痛くて動かない」って言ったのは覚えて.、、、ないんです、、、。
芦澤 会社を6時半出発でね。遅刻した人を怒鳴り散らしたりとか。私も若気の至りでいろいろなことをやりまして、すみません。
佐藤 定刻主義者ですもんね。
芦澤 それには理由があってですね。外で撮影するときって、朝8時の光っていうのが、自然の光を撮るときに最高だっていう持論があるわけですよ。朝8時にはカメラを撮る対象に向けていたいわけ。もちろん真冬とかは違いますけど。月に10日くらいやってたよね。それが3年間くらい続いてたから。
佐藤 全8巻で、8時間の作品ですから。
芦澤 「古都鎌倉DVD」は、1巻と3巻がいいです。佐藤さんと私が挑戦的な画づくりしてますから。
佐藤 そうでしたっけ?よく覚えてますね
佐藤 芦澤さんって、なんでいつもパワフルなんですか?
芦澤 野菜を食べたり、青汁を飲んだり。寝不足にならないようには気を付けますよね。特にトレーニングをやってるわけじゃなくて。撮影ってある種、スポーツみたいな感じするでしょ。毎日やってた方がよいと思います。
佐藤 内容によってフィルムとデジタルを変えるんですか?
芦澤 使い方として、昔の話はフィルムでっていうのはあるけど、それは、まあよくあるから使わないことにして。
芦澤 私にとってTSPは「お助け寺」みたいなところで。困ったときには、佐藤さんをはじめ力量のあるビデオエンジニアの人たちがいるから。初めて使うカメラは、教えてもらいに行くんです。ノイズのこととか、いろいろ勉強したのね。作品によって綺麗っていうのは1つじゃないわけじゃないですか。電気屋さんのいう綺麗、カメラ屋さんのいう綺麗、レンズ屋さんのいう綺麗って違うわけ。でもその作品にぴったりの綺麗っていうのは1つある。それが何かっていうのを見つけることがカメラマンの仕事だと思うんですよ。
4Kをいやだって言ってるんじゃなくて、4Kじゃない表現だってその作品にとっては綺麗になるわけだから、そういうものを見つけるという意味で私は、高感度系のカメラを探ったりしてチャレンジしています。
別に、フィルムっぽくしようっていう気は全然ないんですよ。仕事で、「フィルムっぽく」っていう言葉は使わない。作品として「これをフィルムっぽく撮りましょう」って言ったことないのね。なぜかっていうと、その時は、フィルムでやればいいわけ。デジタルでやるんだったらそのデジタルの良さを表現するっていうのがまず第1であって、で、デジタルの嫌なところを除いていったら、結果的にフィルムっぽくなったねとか、そういう結論は導かれることはあるけど。デジタルはデジタルの良さをその作品に合わせるというような発想を常にしているので。フィルムっぽくっていう言葉は、変だなって思っている。おかしいなって思っている。で、今やっている仕事にしても、まあ自分の望む形をデジタルに望んだらこうなったっていうことだから、そういう点では、取扱説明書に書いていないことをやりたい。
で、取扱説明書に書いていないことをやるためには、やっぱりそういう人たちと一緒に組むことによって取扱説明書を超える、作品にあった良いものができるんじゃないかっていうことを考えています。モノを作るときの参加っていうのは、それじゃなくて、踏み込んだ形でやっていってもらえることが1番いいと思うんですよ。私の勉強不足かもしれないけど、そういうことに詳しい人がいたら、「もっとこんなことが出来ます」、「こう出来ます」って言ってもらえるわけじゃないですか。そこにやっぱりこう、フィルムっぽくないデジタルの良さっていうのが出てくるんじゃないかっていうのがあって。
佐藤 はい(笑)
芦澤 今、仕上げているのが、沖縄の浜辺の撮影だったんですけど、昼間の燦々とした太陽は、どんなに頑張ってもフィルムがいいに決まってるんですよ、逆光とかいろいろ。それはフィルムで撮って。でも全部フィルムで撮るって、やっぱりコストの問題もありますから、ナイターはデジタルにしたの。誰もしないフィルムとデジタルっていうのをこれから模索しようかなと思っているので。だからそういうことに対応できる、カメラとか映像機器の調整、設定をするVEなり、最近でいうDITがいてくれる会社に行くわけですよ。TSPには、いつまでもチャレンジする会社であってほしいなと思います。
芦澤 「ここは、本当はこんな感じだよね」ってやっておいて、何日か経って編集ってなったときってなかなか思い出すのも難しいし、もっと違うことをやりたくなっちゃうかもしれない。やっぱり現場をどう再現するかっていうのが私にとって非常に重要なことなので、「後で」っていうことはなるべく少なくする。そのためのセッティングをするっていうことです。
だから、理解できるVEなりDITが必要なわけ。今も、私がこんなに現場のVEやDITを大事にして考えるかっていうルーツはやっぱり「古都鎌倉」なんですね。鎌倉は、日差しの悪いようなお寺でも、立派なお寺に撮らなくちゃいけない。VEの力っていうのはすごくあるなって。3年間にわたって撮影していたので色んなVEさんが来てくれて。みんな個性がある。そこでデジタルにはこういう専門家の力っていうのが必要で、そこはやっぱりクリエイティブに直結しているなって思いました。
芦澤 TSPにも多くの優秀な人がいるから、そういうような仕事と出会ってほしい。
芦澤 フィルムと違って、デジタルは見てわかるわけだから面白いと思うんです。そこでいかに遊ぶかが重要ですよね。フィルムは遊べないじゃない。どうなったか現像してみないとわからない。まあそれはそれでいいんだけど、デジタルの楽しさってそういうところにあるから、それを捨てて「後日、編集でね」ってとんでもないかも。
佐藤 僕も現場主義ですね。なんでも後で出来るからっていう、イマドキな考え方じゃなくて。現場でなるべくやろう、作ろうって。デジタルにも便利なところも、ありますけれどね。
芦澤 TSPにはいろんなタイプのカメラマン、技術の方がおられると思うんで、いろんな話が聞けて面白いですよね。なんでも頼めば出来ちゃう。広く深くな会社であってほしい。
芦澤 最近の撮影現場は、モニターと機材の結線の話が多いんです。こうしたらこうなりますって。取扱説明書を見ながらやることでいっぱいいっぱいになっちゃう。「収録データの取り込みはどういう風にしますか?」ってそっちの話。そこで仕事が終わっちゃいますよね。助手さん見ててもね。だけど実は「そこから先なんだ」っていうことなんですね。「このシーンのここをどういう風に表現しようか」っていうことが抜けて、抜け落ちて。だから肝心なところが抜けたままカメラマンになっちゃったりすると、やっぱりそういう喜びっていうか、モノづくりの楽しみが見い出せないじゃない。
どこで喜びを感じるかって考えた方が楽しいですよね。